『絶対に負けられない戦い』テレ朝がしつこいくらいに使うこのフレーズ。しかし、先日のサッカーW杯ブラジル大会アジア最終予選の対ヨルダン戦で日本代表は負けた。『絶対に負けられない戦い』なのに負けてしまった。もうワールドカップへの道は閉ざされた.....んな、わけない。実際には、負けてもほぼワールドカップには行けるだけの貯金がすでにあった。つまりは、決して『絶対に』という訳ではなかったのだ。ただ「こんな所で負けていられない」という意味で使われていたのだろう。『本当に負けられない戦い』というのは、アメリカW杯アジア最終予選での対イラク戦、いわゆる「ドーハの悲劇」のようなシチュエーションをいうのだろう(結果は引き分け)。本当の意味で『絶対に負けられない戦い』ということでいえば、2000年4月7日に行われた新日本プロレス東京ドーム大会での橋本真也VS小川直也もそれに該当するか。「強いものが勝ち、負けたものが去る。それが格闘技の掟。悔いなき戦いをせよ」ー田中リングアナの口上が終わり、リングインする2人。「負けたら引退」と公言し坊主頭にして臨んだ橋本真也。それを迎え撃つ小川直也。それを見つめる藤波、坂口父の表情がまた良い。この試合はTVで生中継。この頃はまだプロレスの試合がゴールデン生中継されるという良い時代。殺伐とした空気の中ゴングが鳴る。初めにチャンスをつかんだのは小川だった。左アッパーカットが橋本の顎をヒットしダウンを奪う。橋本は懸命に場外に逃れ、リングの回りをグルグルと回りインターバルをとる。そして、小川をロープ際におびき出すと、水面蹴りを喰らわし橋本が攻勢に出るが、ここで小川のセコンドについていた村上和成がリングに入り試合に水を差す。「邪魔だ、村上」この2人の戦いにはよく見られる光景ではあったものの、正直うんざり。(ちなみに橋本のセコンドには、まだ善人の仮面を被っていた飯塚高史、こちらも変身前のKENSO(鈴木健想)、安田忠夫などある意味で豪華だった。10何年経つと人って色々あるもんだなあ。もし今、村上VS飯塚とかやったらどうなるんだろう?)「まさかまたノーコンテストか」という多少の不安はある中、小川がリングに戻る。再び対峙した橋本真也と小川直也。橋本は小川の必殺技STO(スペース・トルネード・オガワ)封じに成功しポール際に追い込み、その後、花道でのDDTなどで優勢になったかと思われた。しかし、橋本には決め手がない。ローキックなどで小川を悶絶させるも決着には到らず。その後、小川のSTO3連発や胴締めスリーパーなどで徐々に小川が形勢逆転。橋本を追いつめる。そして、とどめのSTOが炸裂し、橋本はリング上でダウン。口をパクパクさせ、立ち上がることが出来ずKO負け。最後は2人の師匠であるアントニオ猪木が「1、2、3、ダッー!!!」で無理矢理閉めたが、「負けたら引退」と言っていた新日本のベビーフェイスである橋本真也が負けてしまうという予期せぬ展開に異様な雰囲気に(ちなみにわたしは小川を応援してたが)。ここには確かに『絶対に負けられない戦い』があった(橋本は本当に引退する、すぐにZERO-1を旗揚げし復帰するけど)。(それにしても、OGも立候補すれば参戦可能となったAKB総選挙ってつくづくプロレス的だと思った。もし辞めたのが1位になったらCDのメンバーとかになれるのか?現役のメンバーのプライドは?もう、よくわからん。どうでもいいですが)そして、今週末の3月31日、『絶対に負けられない戦いがそこにはある』のだ。そこ、とは、兵庫県宝塚市の阪神競馬場。この日のメーンレースにオルフェーヴルが出走する。オルフェーヴルは何も「負けたら引退」するわけでもないし、ここで賞金を稼がねばならないような状況でもない。しかし、もう負けられない、負けることは許されないのである。思えば、昨年のオルフェーヴルは散々だった。まずは初戦の阪神大賞典。単勝1.1倍というダントツの1番人気に支持された。相手と言ったら前年の春天の覇者・ヒルノダムールとダイヤモンドSで2着し長距離路線で頭角を現しはじめていた名牝・ファビラスラフインの息子ギュスターヴクライくらい。いや、この2頭とて3冠(+有馬記念)馬のオルフェーヴルからしたらレベルが違う相手。それこそ「負けるはずのない」戦いだったのだが...結果はギュスターヴクライに半馬身差の2着。しかし、負けたのは己自身にだった。スタートから折り合いがつかずかかり通し。道中、まさかのハナに立つ。しかし、それだけでは終わらず、向こう正面でまさかの逸走。ズルズルと下がっていくオルフェーヴルの姿に、「やっちまったか」と思った人も多かろう。しかし、オルフェーヴルはそこからなんと猛然と巻き返し、大外を一気に捲って差を詰めていく。最後は抜け出したギュスターヴクライに迫ったが及ばず。敗れはしたものの、このレースぶりを見て、この馬の底知れぬポテンシャルとその強さとは表裏一体の暴発性を見せつけられたのである。次の舞台は、春の天皇賞。前走で「ありえない」レースぶりを見せつけられ、わたしもたまらず淀まで見に行ったのだが。ゴールデンハインドとビートブラックが3番手以降を大きく突き放しレースを引っ張る。前走で気性の矯正を強いられたオルフェーヴル陣営はこの日メンコをつけてレースに臨んでいた。スタートから後方で折り合うオルフェーヴル。しかし、位置取りはいつも通りも落ち着き過ぎているキライもあった。前の2頭がなかなかバテない中、後方の馬もオルフェーヴルを意識してか仕掛けられずレースが進み、4コーナーでビートブラックがゴールデンハインドを交して先頭に立つ頃には決定的な差が着いていた。オルフェーヴルは結局、終始後方のまま11着に惨敗。単勝1.3倍の期待に応えることは出来ず。デビュー直後に出走した明らかに距離が合わなかった京王杯2歳S(10着)以来の惨敗に、当初から目標とされていた凱旋門賞参戦は白紙に戻されたのだった。無敵に思われた3冠馬がまさかの連敗。しかも、立ち直れるのか心配になるような負け方。果たしてオルフェーヴルは復活出来るのか、という疑念の中出走した宝塚記念は1番人気にはなったものの、単勝3.2倍という数字が物語るように多くのファンも半信半疑、陣営も「7分のデキ」と公言する中でレースを迎えることに。かくいうわたしも、本命はショウナンマイティに。別にオルフェーヴルを見限ったわけではないが、馬券的なことを考えるとショウナンマイティが3着以内に入る確率の方が高いと判断したためである。レースはネコパンチがハイペースで飛ばす展開。かかってしまうのが心配なオルフェーヴルは中団に控え馬群の中でレースを進める。直線入り口で、香港GⅠクイーンエリザベスCを勝った2番人気のルーラーシップが抜け出すが、馬群を割って一気に交したのがオルフェーヴル。今までは大外からまとめて抜きさるレースが多かったオルフェーヴルだったが、今回はひと味違う勝ちっぷりで復活勝利を挙げた。ただし、このレースも勝つには勝ったがまだこの馬の本当の強さを見せたとは言えず。しかし、この勝利で陣営は白紙になっていた凱旋門賞参戦へと舵を切った。ここでオルフェーヴル陣営はある決断をする。それは、乗り替わりだった。阪神大賞典、春の天皇賞と続けて失態を犯した池添謙一を降ろし、フランスでの実績十分なスミヨンへと騎手を替えたのだった。はじめてスミヨンとのコンビで挑んだ仏初戦・フォア賞。4頭立てという難しいレースとなったが、僚馬・アヴェンティーノのアシストもあり勝利で飾る。そして、ついに大目標となる凱旋門賞を迎えた。大外枠からのスタートとなったオルフェーヴルは、馬群に包まれるのを避けつつも、入れ込むのを防ぐためにアヴェンティーノを前に置きながらのレースとなった。アヴェンティーノのエスコートから直線で万を持して大外に持ち出したオルフェーヴル。残り300Mで先頭に立つと一気に内の馬を突き放し誰もがその勝利を確信したが...最後はソレミアにゴール前差され2着。エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタと同じ2着に終わり、日本馬初の快挙はならなかった。敗因も早仕掛けとか、直線でささったのが原因とか色々言われるが、実際に追い出しを遅らせていたらどうなったかは分からない。ただ、“勝つため”にロンシャンでの経験を重視してスミヨンに手綱を任せ、宝塚記念を勝った池添謙一を降ろしてまで挑んだだけに、後味の悪さも少なからずあった。ただこの件も、実際に池添謙一だったら勝てていたのかどうかは誰にも分からないのだ。帰国したオルフェーヴルは、前年に勝った有馬記念ではなく、凱旋門賞馬ソレミアも参戦するジャパンカップに参戦する。正直まだ凱旋門賞の疲れは抜けきれていない中ではあったが、単勝2.0倍の1番人気になったは凱旋門賞のレースぶりから、改めてこの馬の強さを感じ取った人が多かったと言えた。再び手綱を任された池添謙一は、オルフェーヴルをいつものように後方の外目に置いてレースを進める。大逃げを打つビートブラックを意識し、3コーナーから早めにしかけるオルフェーヴル。直線に入りビートブラックを視界に捕え交しにかかるその時、内から伸びてきたジェンテルドンナに馬体をぶつけられ大きく体勢を崩す不利にあってしまう。その後すぐに持ち直してジェンテルドンナとの壮絶な叩き合いになったが、4キロ差もあって最後まで交すことが出来ず2着に敗れてしまう。このレースは色々と物議を醸したが、結果としてオルフェーヴルが3歳牝馬のジェンテルドンナに先着を許したという事実は変わらず、己自身に負けた阪神大賞典や春天とは違うショックな敗戦であった。こうして昨年のレースをザッと振り返ってみたが、東日本大震災という歴史に残る出来事のあった年に3冠馬になったオルフェーヴルのレースはどのレースも記憶に残るものばかりだった。しかし昨年の日仏での全6戦は、いずれもこの馬の本当の強さを見せつけるのは至らず。強さでよりも話題先行になってしまった感が強い。だからこそ、今年こそは本当の強さを見せつけてもらいたい。そのためにはどのレースも『絶対に負けられない戦い』なのである。大阪杯で手綱を取る池添謙一にとっても、今年こそは凱旋門賞に騎乗するとの決意でこのレースの後にフランスに武者修行に行く。もし大阪杯で昨年の阪神大賞典のような失態を演じれば、その時点で凱旋門賞はないだろう。この大阪杯は人馬共に大きなレースになるのは間違いない。ただ心配なのは、何度か書いているが、昨年が色々あり過ぎて「燃え尽き症候群」のようになっていないかが気がかり。2000年に王道路線を8戦全勝したテイエムオペラオーは2001年の大阪杯でそのきらいはあった。ライバルとされるジェンテルドンナ、ゴールドシップとは宝塚記念で相見える予定。ここで堂々と主役を張るにも『絶対に負けられない戦いがそこにはある』。「強いものが勝ち、負けたものが去る。それが格闘技の掟。悔いなき戦いをせよ」
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